棚卸資産と在庫の明確な区別と正確な計上は、企業経営において欠かせないポイントです。 この記事では、それぞれの概念と計上手法についてくわしく解説します。ぜひ参考にしてください。
棚卸資産と在庫の違いとは?
棚卸資産と在庫は似ていますが、用語の使い分けや定義に違いがあります。
棚卸資産は主に会計上で用いられ、その定義が定まっているものです。一般的には原材料や製品が「在庫」と呼ばれることが多い中、棚卸資産には社内で使用されるボールペンの備品なども含まれることがあります。
一方で、在庫は一般的な用語であり、厳密な定義が確立されていません。通常、商品や原材料が在庫として扱われますが、言葉の使用に制約がなく、広範囲に適用されます。
つまり棚卸資産は主に会計的な視点から定義され、広義の在庫に含まれる一部といえるでしょう。
棚卸資産の種類
ここでは、主に「原材料」と「仕掛品」という二つの棚卸資産の種類に焦点を当て、それぞれの意味と重要性について解説します。
原材料
原材料は、製品や商品を製造する際に使用される最初の素材や成分を指します。これらの資産は、まだ生産段階に取り込まれておらず、未加工の状態で保管されているものです。
企業は原材料を効果的かつ効率的に管理し、製品の製造プロセスに適切なタイミングで組み込むことで、製品の生産スケジュールを最適化できます。
仕掛品
仕掛品は、製造プロセスの途中にある製品で、まだ完成していない段階のものを指します。
この資産は、生産ラインで加工や組み立てが行われている最中であり、完成品になる前の状態です。仕掛品の適切な管理は、生産プロセス全体の効率性を確保し、生産の進捗を正確に把握することに役立ちます。
棚卸資産評価の種類
棚卸資産の評価方法は、企業が製品や商品の在庫価値を算定し、財務報告に反映する上で重要です。ここでは、棚卸資産評価の種類について、詳しく説明します。
先入先出法
先入先出法は、最初に入庫された在庫が最初に使用または販売されたと仮定します。つまり、最も古い在庫から順に消費されるものです。
この方法では、在庫の評価は常に最も古い在庫の原価から始まり、新しい在庫が追加されるたびにその原価が更新されます。
先入先出法は、物理的な流れに近い形で在庫を評価するため、生鮮品や時価変動の大きい商品に適しています。
総平均法
総平均法は、期初在庫と期末在庫の総原価を合算し、その総額を在庫数量で割って平均原価を算出する方法です。これにより、在庫の平均単価が得られます。
期初と期末の在庫コストを均等に配分するため、生産や仕入れ価格の変動に対して比較的安定しています。総平均法は主に均質な在庫品に利用され、変動が少ない商品ラインの評価に適しているでしょう。
移動平均法
移動平均法は、棚卸資産を評価する手法であり、過去の期間と現在の期間の在庫原価を平均して、新しい在庫が追加されるたびに原価を更新します。
この方法では、在庫の平均単価が過去の取引価格と最新の価格を均等に反映します。変動が比較的少ない在庫品や需要の変動がある商品に適していると言えます。移動平均法は、価格の変動に迅速に対応でき、原価の安定性を確保します。
最終仕入原価法
最終仕入原価法は、在庫を最後に仕入れた単価で評価します。この方法では、最新の仕入れ価格を優先的に反映し、過去の価格変動が影響を与えにくい特徴があります。
商品や原材料の価格が頻繁に変動する場合、最終仕入原価法は変動に素早く対応でき、原価の正確な把握が可能です。企業はこの手法を通じて、最新の市場価格を基に在庫の正確な評価を行い、財務報告や経営判断に生かします。
売価還元法
売価還元法は、在庫の評価を販売価格から製品の利益率を差し引いた額で行います。この方法では、製品の利益率が考慮され、在庫の原価がそれに基づいて算出されます。
主に小売業で使用され、販売価格が変動する場合でも在庫の評価が可能です。売価還元法は、収益性を重視する企業に適しており、在庫の評価において販売側の視点を反映します。
個別法
個別法は、各在庫アイテムを個別に評価します。これは製品ごとに異なる原価を持つ場合に有用で、各製品や商品に固有の原価を明確に追跡可能です。
個別法は高価で特殊な商品や限られた数量の在庫品に適しており、追跡性が高い特長があります。ただし取引が多く複雑な場合、管理が複雑になりがちです。この方法を使用すれば、製品ごとに正確な原価を記録でき、個別の商品に対する収益性やコストを把握することができます。
棚卸資産の評価損を計上する方法とは?
棚卸資産評価損は、在庫の劣化に起因する損失を指します。
通常、実際の損失は商品を販売しない限り発生しないため、在庫の評価損を損金として計上することはできません。
ただし「品質劣化(破損や型くずれなど)」「商品が極端に流行が過ぎた(ただし、季節商品などは除く)」「災害により著しい損傷が発生」といったケースでは、棚卸資産評価損の計上が許容されます。
なお、棚卸資産の評価損については、以下の式を用いて算出できます。
棚卸資産評価損=棚卸資産評価額−販売した価格
この評価損を期待して在庫を残しておくことは、決算書への計上が許容されるからといっても、キャッシュフロー悪化などの理由からデメリットが大きい可能性があります。そのため、決算前に在庫を減少させる方が望ましいでしょう。
棚卸資産と在庫の違いを理解して正しく計上しよう!
棚卸資産と在庫は企業の経営において異なる概念であり、それぞれ適切に理解して正確に計上することが不可欠です。
これらの概念と計上方法を理解し、透明性と信頼性のある財務報告を行うことは企業の持続可能な成長と効果的な経営において重要なことです。棚卸資産と在庫の違いを理解して、正しく計上しましょう!